私はバスに運ばれて土曜日の麗かな昼に日光へと向かった。一緒にいる母はとても嬉しげに珈琲を飲んでいる。いろは坂は紅葉が散っていたものの名残のような鮮やかな色がちらほらと見られた。坂の途中には天狗がいた。先週の三連休はこのいろは坂を登るだけで3時間も掛かったそうだ。バスの大名行列。それを家康がさせている図を考えただけで面白くて仕方ない。と同時に、自分がその大名行列に混じっていなくてよかったとも安堵した。先週のバスツアーでは、後々の日程が押してしまって、日光東照宮を見られた時間はたったの30分だったとか。滑り込み家康謁見とエクストリーム200段階段は厳しすぎる。そんなことを考えているうちにバスは下界から日光の秘境へと滑らかにカーブを描き上昇する。雨女の私だけれど、母は根っからの晴れ女らしい。一体私の雨女体質は誰からの遺伝だろうか。今回は雨の予報だったが、結局は母の方が勝ったようで、快晴の青空が眩しかった。
華厳の滝とエレベータと自撮り
まずバスツアーの一行が到着したのは、栃木の名勝・華厳の滝。私がこの旅で一番楽しみにしていた場所だ。滝には龍神様がいらっしゃると本で読んでからというもの、色々な滝に行っては、マイナスイオンのような何か運気のような御加護を受けようと躍起になっていた。きっと、有名なスポットである華厳の滝では素敵な御加護が受けられるに違いない。下まで降りる有料のエレベータに列をなそうと走り出す母親を横目に、私は謎の余裕を見せ、龍神とのご対面に胸を高鳴らせた。エレベータ列には少し並んだが、乗車時間は1分程だった。エレベータを出るとひんやりとしたトンネルが我々を出迎えた。元々は洞窟だったのだろうかという冷気。トンネルを進んでいくうちに何か祠のようなものを見つけさらにちょっと凛とした空気を感じる。滝は出て右側の展望台からが一番よく見えた。しかし、思っていたよりも滝から展望台は距離があり、迫力というものがあまりなかった。これなら秩父華厳の滝の方が良かった。そう思いながらも横で感動している母に水を差すのは違うと思ったので一緒にすごいと言ってみた。実際、近くに行ったらきっとすごい滝だろうとは思う。けれど私の撮影能力ではこの滝の素晴らしさや雄々しさのようなものは微塵も写すことが出来ず、自撮り棒で母親と撮った写真なんて、滝が二つの大きな顔の真ん中から申し訳程度に出てきた糸くずのようだった。父に写真を送信したら案の定「これは箕面の滝ですか」と故郷大阪の滝の名前を持ち出された。華厳の滝よ、展望台の遠さと私の撮影能力を恨んでくれ。あと、ここまで酷評してしまったが、華厳の滝自体はすごいと思うので、どうか龍神様御加護をください…。

ヘルシー豆腐系定食
華厳の滝でパワーをいただいた後は、待ちに待った昼食。指定のドライブインの食堂に行くと、そこは人人人。外国人や高齢者やファミリーといろんな集団がいたにもかかわらず、何故か修学旅行の昼食を思い出した。我々にあてがわれた席にはもう御前が並んでいて、ペアの方は向かい合わせに座ってくださいと指示された。四人席で普通知り合いは隣同士に座るものだと思うのだけれど「ペアの方は向かい合って座るってどういうことだろう」と私はしばし思慮してしまったが、結局母とは隣同士に座った。向かいの席は高齢のご夫婦。相席というのが若干気まずいが、どうせ今日限りの関係だ。気にせず食べていこう。

気になるメニューは、豆腐やゆばを使用したヘルシーな和食膳だった。最初は「あぁ、お腹にたまるかな?」なんて考えたけれど、彩も豊かで、ボリュームもあったため、結構美味しくいただけた。お腹の空いていた母と私は、早々にごはんを平げ、この旅の本丸である日光東照宮へと繰り出すことにした。
大猷院がすごかった
昼食を食べ終わった我々が向かったのは、日光東照宮…かと思いきや、まさかの左に道を逸れた大猷院。こちらは三代将軍の家光公の廟所ということだが、事前リサーチで、一生家に飾っておける龍神破魔矢なるものを授与されていると知り、真っ先に駆け付けてきたのだった(とても現金な親子)。はやる気持ちを抑え、大猷院の中へと進んでゆく。
「ここいいとこやね」…何かを感じ取ったのだろうか、母が呟く。確かに東照宮に比べ人も少なく落ち着いた麗らかな雰囲気なのだけれど、門や建物の装飾は美しく、天国という場所があれば、こんな穏やかなのだろうか…?と感じる場所だった。家臣の方が眠る場所もあったが、日がいい感じに当たっていてほんとに穏やかの一言だった。死後にこのような場所があるということが救いのような気がした。

歩を進めてゆくと、私の大好きな龍の描かれた門があった。テンション上がりつつ、写真を撮りつつ建物の中に入ると、丁度お寺の方が講義をされているところだった。気になる内容は…

寺の方「一般的に破魔矢を飾る時は矢を下にされることが多いかと思いますが、飾る時は、運気を向上させるということで上向きに飾ってください」
なんと、お目当ての破魔矢の講義だった!お話の内容も納得できた上に、お寺の方が手にされている金色の龍神破魔矢は、昇り龍があしらわれており、やはり素敵に見えたので、講義が終わるやいなや即購入(こういう時のおかんは早い)。かくして、我々親子は龍神破魔矢を手にすることが出来たのだった。