土曜の夜、繭の中で。

 ウッドウィックのアロマキャンドル、IKEAの水色のライト、ゲランのバニラを身に纏い、暖色の橙に包まれたワンルームは、今宵、私の繭となる。

長らく筆を取っていなかったのは、きっと私が筆無精なせいもあるけれど、それよりもPCまでの距離が遠かったことにあると思う。「書こう」と思う瞬間はあったのだ。それこそ何度も訪れた。不意を突かれたスコールみたいにアイデアが脳の毛細血管を駆けてって、気付いたら雨が上がるように霧消した。今では、一体何を書こうと思っていたのかすら思い出せない。形にならなかった空想なんて儚いものだ。それは卵子と結ばれなかった精子のようにこの世界のどこかに漂っていて、きっともう二度と会うことはないのだろう。私のアイデアはPCに入力される前にシャットアウトされてしまった哀れな精子だ。

精子で思い出したけれど、毎日仕事に行くのが嫌過ぎてターミナル駅前の公園に座っていた時のこと。ここには噴水があって、何の周期で噴き出すのかは分からないけど、たまに水が出る。それが、迸る精子のイメージにそっくりなのだ。自分でも何を言ってるのだろう、とは思う。でも誰かに言いたくて、でも誰にも言えなかった風景だ。最初はちょろっとしか出てこない水が、クライマックスになるにつれて激しく迸ってきて、それが何分間か続くので、思わず「絶倫じゃん…」とか頭の中で呟いている。ここで間欠泉とか鯨の潮とか思えないのは、きっとその光景が私の人生に一度も登場しなかったからだろう。もう少し綺麗な例えを出来る人間になりたかった。いつだって俗っぽい例えと卑近な事例しか思い付かないので、口に出せない。そんな調子なので、職場で私は「ボキャブラリーが少ない」人間として通っているはずだ。まあ、噴水を見て精子としか思えない時点で、語彙力が無いのは事実である。この評価は甘んじて受け入れるしかない。

ほんでもって、私の日常について、特に面白いことがないので、書くことが無い。創作したいのだけれど、頭の中に何かが欠如しているのか他者の気持ちを想像することが出来ない(致命的)。PC卵子に辿り着いたところで、生み出されるのはこういうクズ駄文だ。人に見せられる代物ではない。それでもここにこの駄文をあげたのは、ブログを更新して欲しいという物好きな方がいらっしゃったからだ。この人はどういうつもりか分からないけど、本当にどうかしてると思う。私は嬉し過ぎて家族と恋人に話した(そこしか話す人がいない)、一通り話して満足して、そしてブログは更新しなかった、ゴミカスである。そろそろ見捨てられる頃合いだろう。メンタルが2歳児から発達出来てないので、1μでもキツい言葉を掛けられたら「いやなきもち!」とゴネてもう書くことはないと思う。だから、もし見たくない人がいたら、何も言わずに去ってもらうのがお互いにとってしあわせであると断言する。。

現在、暖色のワンルームの繭の中で、最高にしあわせな土曜日を過ごしている私は、お気に入りのくまさんにタオルケットを掛けた横でPCを捏ねくり回している。久々に気分が良くてトロリーの片付けをしてたら、たまたまPCが出てきて、開いたら運良く電池残量が35%もあった。大抵はここで充電不足のマークが出てきて画面が真っ暗になり、そのまま放置ルートを辿るので、今日はラッキーだった。元々リュック一個で生活してたガチミニマリストなので、部屋が散れていると落ち着かない。気付いたら片付けばっかりしているので、最近はなるべくものを買わないようにしている。

「しがないOLが300万円を貯めるまで」という連載をしていたけれど、恐らく私は問題になってないだけで、十分買い物依存の傾向を示していて、ものを買ってはすぐに捨てたり、家族にあげたりしていた。仕事のストレスから、毎日ルミネとか百貨店とかに寄って、書いたい訳でもない化粧品とか香水とか、色んな雑貨を買ってしまうのだ。当然お金が貯まる筈がない。最近やっとそのことに気付いて、少しずつ職場でも人と話が出来るようになってきて、私は何も買わなくったって、そのままの自分でいいのだと思えるようになってきた、23%くらいは。で、必要のないものを買わなくなって本当に欲しいものだけを買うようになったのだけれど、家の雰囲気が変わった。家にいても落ち着かなくて、窓の外の建蔽率の高さにイライラしてたはずなのに、今じゃ家のこと繭とか思えるようになっている。別に立地が変わった訳じゃないけど、結構好きだと思えるようになった。

思うのだけれど、何かを書こうと思ったら、ある程度余裕がないと書けない気がする。勿論、有り余る暇は人を腐らせてしまうとは思うけれど、毎日ギスギスイライラしている状態でもものが書けるっていう人はもはやプロだと思う。私なんか、ストイックじゃないし、メンタルも不安定なので、プロフェッショナルからは程遠くて、とにかくお膳立てして褒め散らかして、それでも書かなくて、本人の中で「機は熟した…」と思える謎のタイミングでようやく腰を上げる。それで、村上春樹氏とか森茉莉氏とかみたいな文才があれば、文学フリマで売る道もあっただろうけど、生憎そのような能力も持ち合わせていないので、繭の中で自己満足して、今日はこの辺で筆を置こうかと思う。

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