第3話:石動双葉町
しばらく石動駅の2号車3番扉の乗車位置で感慨に耽っていると、駅員のお兄さんがジッとこっちを見ているのに気付いた。自殺でもするんじゃないかと思われたのかもしれない。いたたまれない気持ちになって、ベンチを探すフリをした。ー先生は、あの日から変わってしまって、明るくて優しい先生じゃなくなった。何を聞いても上の空で「何で来なかったの?」と聞いても「ごめん」を繰り返すばかりだった。そして、私は卒業した後も先生のことを忘れたことはなく、初めての恋人が出来ても、かっこいい芸能人を見ても、やはり先生のことを思い出す。いつまでこんな感情を引き摺るのだろう、嫌になってしまう。私の座右の銘の一つに「自分の力でどうにも出来ないことはクヨクヨと考えない」というものがあるが、この気持ちだけはどうしようもなかった。
そうだ。折角沢山時間を貰ったし、用事が済んだら浅香山学園の駅に行ってみようか。こんな気持ちになってしまうのはきっとあれから学園に行かずに苦い記憶として封印してしまったからなんだろう。少しだけ心の緊張が解けた私は、2号車3番扉から電車に乗った。
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用事はすぐに終わった。双葉不動産は慣れたもので、私が登記書類を見せるとすぐに分かった様で「本当にすみませんでした…先生にもよろしくお伝え下さい」と言っていた。突っ込まれなくてよかったな。
石動双葉の新しい街並みは小綺麗で駅前には噴水広場があり、お昼時なのもあり、子連れのお母さんが自転車でひっきりなしに往来していた。当時石動駅から乗るはずだった先生。石動双葉町に住んでいるということだけは知っていたけれど、どこら辺なのだろうか。この駅か隣駅には今も先生が住んでいるのだろうか。もはやストーカー的センチメンタル思考を引き摺るアラサーの私は人から見たらただの怪しい女に見えるかもしれない。どこまでも私はこの街に似合わないのだと悟り、さらに隣駅にある浅香山学園を目指した。